サッカーの中高一貫指導 [Soccer]
近年、サッカーにおいても「中高一貫指導」という言葉をよく目にするようになった。これは、2006年の野洲高校の選手権優勝や、同年4月のJFAアカデミー福島開校で一貫指導に対する世間の関心が高まったためだろう。一貫指導について少し調べて見た。
中高一貫指導で南米のようなサッカーやりたい 井田勝通監督(静岡・静岡学園)
報知新聞 2002年12月28日
鹿実を越えるため 山平義幸監督(鹿児島・鹿児島育英館中)
毎日新聞 2009年1月11日
ジュニアユースチームでは、中3のクラブユースや高円宮杯で勝利することが目標となる。勝つことを第一目標とすると、組織やシステムの練習を優先せざるを得ない。高校に入ると組織やシステムが変るため、同じことを繰り返すことになる。これを一貫指導の6年間で考えると、無駄を省いて中学年代に技術を習得するための多くの時間を割けるようになる。と、おやじはこれらの記事を読んだ。
ジュニアユースの公式戦を見ていると、ロングボール主体であったり、ショートパスを多用してポゼッションを稼いだりと、戦術の違いはあるが、選手が個人技で勝負を仕掛けるシーンを見られるのは早くてハーフウエーラインを超えたあたり、多くはアタッキングサードに入ってからだ。高校が中学年代でやりたいのは、「安全にボールを運ぶようなジジくさいこと考えとらんと、若者やったらドーンと一人で行ったらんかい」ということだろうか。中学では技術さえ磨けばよいというのは極論で、もちろんそれだけではないのだろうが、もっと技術を磨くことに時間を割きたいというメッセージがあるように、いくつかのテキストを読んで感じた。
不明(調べたが分からなかった)
JFAアカデミーや神村学園、鹿児島育英館のようにサッカーで入学する生徒を選抜するのは、12歳という年齢を考えると、受ける方も受け入れる方もそれなりの覚悟が必要だと感じる。前出の毎日新聞の記事にある、鹿実サッカー部の松沢隆司総監督の次の言葉にその難しさがうかがえる。
背景
「高校サッカー&Jユース強豪・有力チーム徹底ガイド」のコラム記事で、作者の安藤隆人氏は、次のように記している。近年ではJクラブユースの整備が急速に進み、ユース年代における存在感は急激に大きくなった。こうした現状に呼応するように、近年、高体連のチームでも新たな試みが始まっている。それが学校自体の中高一貫校化と、強豪校が軸となって立ち上げたジュニア、Jrユースのクラブチームの発足だ。この背景には、Jクラブや高校が中学年代の育成の重要性に着目し、よりよい人材を育成するために、中学年代の環境整備に力を入れ始めたことがある。ユースの年代では、クラブチームより高校が優位であったが、99年の高円宮杯でクラブチームがベスト4を独占したのをきっかけに、クラブチームの実力が高校に並んだといわれるようになった。プロチームのブランド力を武器に、ジュニア世代の優秀な人材を集めて育成し、高校進学時に高校サッカーではなくクラブに残るという選択肢が力を持つようになったことに、高校が危機感を持ち対策に迫られたということだろうか。
目的
ネットを調べたところ、一貫指導の目的や動機付けに関し、次のような記事を見つけた。中高一貫指導で南米のようなサッカーやりたい 井田勝通監督(静岡・静岡学園)
報知新聞 2002年12月28日
鹿実を越えるため 山平義幸監督(鹿児島・鹿児島育英館中)
毎日新聞 2009年1月11日
ジュニアユースチームでは、中3のクラブユースや高円宮杯で勝利することが目標となる。勝つことを第一目標とすると、組織やシステムの練習を優先せざるを得ない。高校に入ると組織やシステムが変るため、同じことを繰り返すことになる。これを一貫指導の6年間で考えると、無駄を省いて中学年代に技術を習得するための多くの時間を割けるようになる。と、おやじはこれらの記事を読んだ。
ジュニアユースの公式戦を見ていると、ロングボール主体であったり、ショートパスを多用してポゼッションを稼いだりと、戦術の違いはあるが、選手が個人技で勝負を仕掛けるシーンを見られるのは早くてハーフウエーラインを超えたあたり、多くはアタッキングサードに入ってからだ。高校が中学年代でやりたいのは、「安全にボールを運ぶようなジジくさいこと考えとらんと、若者やったらドーンと一人で行ったらんかい」ということだろうか。中学では技術さえ磨けばよいというのは極論で、もちろんそれだけではないのだろうが、もっと技術を磨くことに時間を割きたいというメッセージがあるように、いくつかのテキストを読んで感じた。
形態
高校サッカーの下部組織の形態としては、中高一貫校などで中学のサッカー部を強化するケースと、学校とは別にクラブチームを設けるケースがある。上述のガイドに記載されていた学校・チームを、ネットで調べたことと合わせて記載する。中学サッカー部との連携
体育コースを有する中学などでは、サッカーの実技に合格することが入学の条件となっているケースがある。中学入学にはサッカーの能力は試されないが、合格後あるいは入試の前にサッカー部入部のためのセレクションを行う学校もある。- 入試にサッカー実技を含む学校
- 完全一貫校
- JFAアカデミー福島
学校ではないが、ここに分類した。8月から11月にかけて4段階の選抜試験がある。
- JFAアカデミー福島
- 併設型一貫校
- 神村学園
特能コース。実技試験は小6の秋に実施。
- 神村学園
- 連携型一貫校
- 鹿児島育英館中学
03年にサッカー専門体育コースを設けた。募集人員は20名。セレクションは小6の秋。鹿児島城西高校と連携しており、15名くらいが城西サッカー部に進む。
- 鹿児島育英館中学
- 完全一貫校
- サッカーが中学入試と無関係な学校
- 完全一貫校
- 暁星
幼稚園から高校までの一貫教育。中高は完全一貫なので高校募集はない。中学サッカー部への入部にセレクションはない。
- 暁星
- 併設型一貫校
- 桐蔭学園
併設型の桐蔭学園高校・中学のほか、完全一貫の中等教育学校もある。入学後に中学のサッカー部のセレクションがあり、中等教育学校の生徒も受けることができる。中等教育学校の生徒が高校サッカー部に進む場合は、桐蔭学園高校に転入する。 - 静岡学園
03年から一貫指導を開始した。中学サッカー部のセレクションが、小6の秋にある。 - 常葉学園橘
中学サッカー部のセレクションは小6の秋。
- 桐蔭学園
- 完全一貫校
- 併設型一貫校
青森山田、星陵高校、筑陽学園、ルーテル学院、日章学園、宮崎日大 - 連携型一貫校
帝京大可児
中学でうまくても、そのまま伸びるかは分からない。7~8割は結果が出ない子。教育者として、サッカー以外の道でも生きる力をつけてやれるかが大切(注)「中学でうまくても」は「中学入学時点でうまくても」の意であろう。
クラブチームとの連携
併設する中学や連携する中学がない高校では、クラブチームを立ち上げて一貫指導に取り組むケースがある。こうしたクラブチームを設立年順に並べて見た。高校名 | 中学 | 下部クラブ | 設立 |
---|---|---|---|
武南 | なし | 武南Jrユース | 1993 |
野洲 | なし(県立) | YASU Club | 1998 |
帝京長岡 | なし | 長岡JYFC | 2001 |
成立学園 | なし | 成立ゼブラ | 2002 |
鹿児島実業 | ディアマント鹿児島 | 2003 | |
藤枝東 | なし(県立) | 藤枝東FC | 2004 |
広島皆実 | なし(県立) | A.C. MINAMI | 2004 |
帝京 | 併設型 | 帝京FC | 2006 |
東海大五 | なし | グローバルFC | 2007 |
成果
一貫指導の成果は定性的な面、すなわち質の向上が重要なのだろうが、それをネットで知ることは難しい。定量的な側面で考えて見ると、中学あるいはクラブの選手のうち、どのくらいが上位の高校のサッカー部に入れるのか、高校サッカー部員全体に対する下部の組織の選手の割合、高校の一軍メンバーに対する下部組織の選手の割合、といったところがものさしになるだろうか。このうち、高校の一軍メンバーに対する下部組織の選手の割合を今年度の高校サッカー選手権のメンバー表からピックアップした。分母はベンチ入りメンバー数(25名)になる。結果は次の通りだ。
高校名 | 下部組織 | 所属 | メンバー | 内部昇 格者数 |
内部昇 格者率 |
---|---|---|---|---|---|
青森山田高校 | 青森山田中学 | 中体連 | 25 | 7 | 28% |
星陵高校 | 星陵中学 | 中体連 | 25 | 1 | 4% |
藤枝東高校 | 藤枝東FC | クラブユース連盟 | 25 | 8 | 32% |
野洲高校 | YASU club セゾンFC |
クラブユース連盟 | 25 | 16 | 64% |
高知高校 | 高知中学 | 中体連 | 25 | 13 | 52% |
筑陽学園高校 | 筑陽学園中学 | 中体連 | 25 | 2 | 8% |
日章学園高校 | 日章学園中学 | 中体連 | 25 | 13 | 52% |
鹿児島城西高校 | 鹿児島育英館中学 | 中体連 | 25 | 12 | 48% |
関東のJリーグ下部(J1)についても調べてみた。分母は全メンバーで、大宮のみ2009年度でそれ以外は2008年度の数字だ。ジェフ千葉については、公式HPで公開していないためリストしていないが、広報のインタビューでは15%くらいを外部から取るとなっていた。
チーム | メンバー | 内部昇 格者数 |
内部昇 格者率 |
---|---|---|---|
鹿島アントラーズ | 45 | 21 | 47% |
浦和レッズ | 38 | 26 | 68% |
大宮アルディージャ | 39 | 26 | 67% |
柏レイソル | 36 | 35 | 97% |
FC東京 | 40 | 29 | 73% |
東京ヴェルディ1969 | 40 | 27 | 68% |
横浜F・マリノス | 39 | 29 | 74% |
川崎フロンターレ | 38 | 34 | 89% |
Jリーグ下部組織の場合、柏と川崎の2チームはほぼ内部昇格者だけでチームを作っているが、それ以外は概ね3割前後を外部に求めている。J下部に比べれば高校の数字は低いが、それでも思ったよりも多いというのがおやじの感想だ。
雑感
サッカーの指導という点ではおやじには分からないことが多い。勉強に置き換えると、日能研やサピックスに行って解法の学習をするヒマがあったら、そろばん塾や公文でひたすら計算力をアップしとけ、といったところだろうか。こうした基礎力の徹底強化は、上位の学校に進んでから、更に社会に出てからも強力な武器になる。サッカーでも同じことが言えるということだろうか。ただし、それもその武器を活かすだけの応用力、すなわち考える力があってのことなんだけどね。サッカーでは、戦術を与えることは、子どもたちの自由な発想を奪うのでよくないという意見を目にする。勉強で言えば、解法を与えるな、気付かせろと言うのと同じだろう。学校の授業では「気付き」が中心で、学習塾の場合は、「気付き」を待っていたのでは受験に間に合わないので、どんどん解法を与える。だから塾は学校教育の妨げであり、「悪」だということになる。しかし解法を与えたところで、そこから先には新たな疑問や謎が広がっているのである。そもそも自然科学においては分かっていることより、分かっていないことの方が圧倒的に多いのだ。教えようが教えまいが、考えるものは考えるし、考えないものは考えない。そしていくら教えようが、考えるネタが尽きることはないのだ。サッカーも同じじゃないのかな。戦術で縛り過ぎると、選択肢が減るし考えたことを試せないという弊害はあるかもしれないが。